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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)6347号 判決

原告 香月一二

右訴訟代理人弁護士 高木新二郎

同 楠本博志

被告 八田一男

右訴訟代理人弁護士 船越広

被告 近藤守

右訴訟代理人弁護士 桜井公望

同 桜井千恵子

被告 有限会社ツバサ産業

右代表者代表取締役 町屋正登

右訴訟代理人弁護士 野村孝之

被告 金一雄

〈ほか一名〉

主文

被告らは原告に対し、登記権利者を原告とし、登記義務者を訴外大二運輸株式会社として、別紙物件目録記載の建物につき、東京法務局中野出張所昭和四〇年五月二四日受付第九四二二号停止条件付所有権移転仮登記に基く本登記手続をなすにつき承諾せよ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し、登記権利者を原告とし、登記義務者を訴外大二運輸株式会社として、別紙物件目録記載の建物につき、東京法務局中野出張所昭和四〇年五月二四日受付第九、四二二号停止条件付所有権移転仮登記に基く本登記手続をなすにつき承諾せよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一  原告は、昭和四〇年五月二一日訴外大二運輸株式会社に対し、金一五〇万円を弁済期日同年八月二〇日、利息年一割八分その支払期日は元本弁済期日と同じ、期限後損害金日歩八銭二厘の約で貸渡し、且つ、その債務の履行の担保のために別紙物件目録記載の建物につき、右訴外人において債務不履行のときは、原告においてその所有権を取得し得る旨の代物弁済予約をなし、東京法務局中野出張所昭和四〇年五月二四日受付第九四二二号停止条件付所有権移転仮登記をした。

二  訴外人は、右元利金の支払をしなかったので、原告は昭和四三年五月二八日訴外人宛到達の書面により右建物を右貸金元本一五〇万円の代物弁済として取得する旨の意思表示をした。

三  被告らはつぎのとおり、原告の前記仮登記に劣後する各登記を有する。

(1)  被告八田は昭和四〇年一二月一八日受付第二四〇三一号停止条件付所有権移転仮登記、同日受付第二四〇三〇号根抵当権設定登記、同日受付第二四〇三三号停止条件付賃借権設定仮登記。

(2)  被告近藤は、昭和四一年一月二二日受付第一〇二五号停止条件付所有権移転仮登記、同日受付第一〇二四号抵当権設定登記、同日受付第一〇二七号停止条件付賃借権設定仮登記。

(3)  被告金は、昭和四一年三月一九日受付第五三八四号抵当権設定請求権仮登記。

(4)  被告安部重成は昭和四一年三月二三日受付第五五五六号抵当権設定登記。

(5)  被告有限会社ツバサ産業は、昭和四一年三月二六日受付第五八七三号仮差押登記。

四  原告は、訴外大二運輸株式会社から、前示仮登記に基き所有権移転本登記手続をなすにつき、後順位の各登記を有する被告らに対し、その承諾を求めるものである。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

被告八田同近藤同有限会社ツバサ産業訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実のうち、本件建物について、原告のためにその主張のような仮登記のあること、(但し被告近藤は除く)は認める。また本件建物に、被告らのために、原告主張のような各登記のなされていることについては、各被告の分について、その被告としてはこれを認める。(したがって他の被告の分については知らない。)その余の事実は被告らにおいて知らない。

と述べ、

被告八田訴訟代理人は別に、

一、代物弁済予約の制度は債権担保のための手段であり、その機能する点において譲渡担保制度と異にする理由はない。本件において原告が訴外大二運輸株式会社に対し、貸金の担保として本件建物を代物弁済予約の対象としたものと考えるが譲渡担保におけると同様、代物弁済の予約においても、清算的意義を有するものと、非清算的意義を有するものと大別される。しかも別段の合意のない限り債権担保の目的からして清算的意義を有するものと考えるのが制度本来の立前からいって最も一般的である。だとすれば本件建物の価格から割出して元利金を清算して残金を債務者ひいては後順位抵当権者らに支払うべき義務があるし、又その余裕は十分ある物件である。清算手続を経ずして代物弁済によりその所有権を取得することは契約の趣旨に反し無効である。

二、仮りに非清算的意義を有する代物弁済の予約であるとしても、本件建物の時価は敷地の借地権が極わめて高価であることにより、原告の元利金を含めた債権額を上廻ること大である。

よって、原告が本件建物につき代物弁済によって本件建物の所有権を取得することは不当なものとして公序良俗に反し無効のものといわなければならない。

と述べた。

被告金、同安部は適式の呼出をうけながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、且つ答弁書その他の準備書面をも提出しない。

理由

一、≪証拠省略≫を総合すると、原告が訴外大二運輸株式会社に対し昭和四〇年五月二一日その主張の通りの約定で金員を貸与し、その主張の通りの代物弁済の予約をし、その主張のとおりの登記をしたことが認められる。(登記の点については被告八田同有限会社ツバサ産業は争わない。)

二、≪証拠省略≫によると、その主張の通りの事由で昭和四三年五月二八日その主張のような代物弁済完結の意思表示をしたことが認められる。

三、被告八田同近藤同有限有社ツバサ産業が、原告主張の通りの登記をしていることは夫々の被告において争わないところである。

被告金、同安部重成は不出頭により原告が請求原因として主張する事実はすべて争わないものと認める。

そうすると被告らは、いずれも原告の仮登記をした日以後に登記をしているのであるから、原告が前示仮登記に基き本登記手続をするにつき承諾する義務あること明らかである。

被告八田は原告の代物弁済予約は、譲渡担保と同一に解すべきもので、且つ、清算的意義あるもの故、それを経ずに所有権を取得することはできないと主張するが、仮りに右被告の主張の通りとしても、原告が清算的解決をするには、その本登記手続を経て後、これをするより他には方法がないのだから、本登記をするのは当然で、そのために被告に承諾を求むることはこれ亦当然のことであるから、被告の主張は採用できない。

被告八田は原告の代物弁済予約は、本件建物の時価が極めて高価であるのにこれを代物弁済として取るのは公序良俗に反し無効であるというが、同被告はこの点についてなんの立証もしないのでこれを認めることはできない。

よって、原告の被告らに対する本訴請求は理由があるからこれを正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡田辰雄)

〈以下省略〉

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